社会福祉法人以外の団体や一般事業者等の福祉サービス事業への参入が活発化してきたのはよいが、その反面、一見もっともらしい「人権」や「福祉」を掲げ、無知や弱みに付け込むような事業者や活動グループの紛れ込むようなこともありうるということには注意を要する。
 またノーマライゼーション理念によるところの障害者を支援する活動においても、そうした理念が消化不良のまま曲解され、「人権の尊重・平等」「自己選択権・自己決定権の尊重」と称した空虚な無差別主義を掲げるソーシャルアクションに発展することで、ともすると急激的あるいは過激的になり冷静さを失いやすく、本来の平等や人権の尊重ということとは遊離した支援活動になりがちである。それはおそらく周囲を巻き込むことによって、周囲が問題の本質をよく理解しないまま表面的なところだけを受け止め同調しエスカレートしやすいからだといえる。それを象徴するような事件が旭出生産福祉園で起きた。

 それは、平成15年12月4日の夕方、障害者の地域生活を支援するというある活動グループが車で乗りつけ、その車に入所者の男性1人を連れ込むということがあり、やむなく警察へ通報し、グループの2人が逮捕されたという出来事である。不本意きわまりないことであるが、障害者福祉の成熟過程における象徴的な出来事のひとつとしてここに記しておきたい。

 その出来事の発端は、「本人の意思ではなく、親の希望で施設入所を受け入れたのは人権を奪うものだ」として当施設側を批判するとともに、そのグループの主義主張を押し通そうとする非礼かつ執拗な行為がエスカレートしたもので、その延長線上の出来事ということになる。

 さらにそれだけでは収まらず、2人が逮捕されたことに対して2人が関係するグループのメンバーが大挙して押しかけて来たり、その逮捕を不当とする抗議のビラを撒いたり、インターネット上で施設側を誹謗中傷するなどの行為に及んだ。逮捕された2人は障害者関係団体の警察及び東京都への働きかけもあって不起訴処分となったが、相手側からの弁護士を介した「謝るべきものと思うところは謝って、冷静に話し合いをしたい」という申し出を受け、また東京都の仲介もあり、話し合いに応じることにして現在に至っている。

 主義や主張はいろいろあってもよいが、日々の暮らしにおいてはそれを強引に押し付けるようなことのない配慮や礼節が大切である。
 福祉サービスの充実を図るためには事業者のネットワークが整備されなければならないが、そのためには事業者が競合により対立するのではなく、互いにそれぞれの事業内容の不備を補え合えるような良識ある意識啓発も含めた社会環境づくりが大切で、それができる人材の育成は今の日本における福祉施策の根幹にかかわる重要課題だと考える。

         (「大泉旭出学園の理念・現況・課題―設立30周年―」 2004年10月発行より)







   旭出生産福祉園での出来事、
          その後のことについて
(PDF)


◇2003(平成15)年12月4日の夕方、障害者の地域生活を支援するというある活動グループが当園にワンボックス型の車で乗りつけ、その車に当園を利用している男性1人を連れ込みドアをロックし、外から車内が見えないように窓に新聞紙を張り、園の職員がドアをたたいて問いかけても応じなかったため、やむなく警察へ通報、グループの2人が現行犯逮捕されるという出来事がありました。
 その後二人は不起訴処分となり、彼等グループ側から弁護士を介して「謝るべきものと思うところは謝って、冷静に話し合いをしたい」との申し出があり、それに応じたことは2004年4月8日発行「大泉あさひで通信第3号」および大泉旭出学園のホームページに掲載のとおりです。

◇しかし話し合いの前提である誠意ある謝罪は得られず物別れとなり、「閉鎖的な知的障害者施設で逮捕事件」などの見出しで、「不当逮捕」とか「本人の意思ではなく親の希望で入所を受け入れ、利用者の自由と尊厳を考える精神はどこにもない」などと当園を批判中傷する内容がいまだにインターネット上に載ったままになっています。
 まったくいわれのないことであり、このことは当園を設置運営する法人理事会でも取り上げ、事件に関する経緯も踏まえ、対応について協議の結果、このまま静観するとして現在に至っています。

◇静観するとした理由の第一は、インターネットを通じて日本の知的障害者福祉に関する問題を考えてもらう事例として知られることはむしろ意義のあることではないかと考えたからです。
 第二は、事件に関して彼等グループは、「挨拶が足りなく、誤解を与えて悪かった」と謝罪はしたとして、その行為の正当性を主張しているようですが、単に、「挨拶が足りない」とか「誤解を与えた」という程度で警察に通報したり、現行犯逮捕されるようなことは普通ではありえないことであるにもかかわらず、「不当逮捕」とか「閉鎖的で、悪質な施設」「人権侵害」などと一見もっともらしい人権論や福祉理念、思慮分別のない建前論をかかげ、それを強引かつ執拗に押し通そうとしているに過ぎないことは明白であろうからです。
 第三は、本事件の背景には知的障害者福祉に関する施策をめぐる問題があり、彼等グループをよりよい方向に指導すべきところの斯界に名を連ねる人や団体の関与もあり、良識を欠くようなこれ以上の事態を招くことはないであろうと判断したからです。

◇主義や主張は大切で、いろいろあってよいと思いますが、日々の暮らしにおいてはそれを強引に押し付けることのない配慮や礼節をわきまえなければならないと思います。ましてストーカーまがいの行為は厳に戒め、真に障害者福祉の向上に情熱を注ぐ人材の育成は喫緊の課題だと改めて痛感する次第です。
 しかしながら福祉事業にたずさわる人材の育成にはその基本となるところの明確な福祉理念がなければなりませんが、その理念が確立したものとなっていないため現実とのギャップが大きく、人材が育ちにくい現状があります。障害者や高齢者の福祉サービスの利用ニーズは高く、それに対応できる専門職の育成が強調されている一方で、やる気と誇りをもって続けていくにはその就労条件はよいとはいえません。
 社会福祉の基礎構造改革で、従来の福祉施策を抜本的に改めるとする新たな法律や制度が制定されるなかで、本来なら改善されるはずの施策がむしろ逆の方向に向かっている状況があるといっても過言ではありません。障害者自立支援法はまさにその典型だと思います。


               (旭出生産福祉園園長 浅井 浩  2007年10月19日「大泉あさひで通信 第11号」より)

                                     

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平成15年12月4日の
  旭出生産福祉園における事件について